僕の庭

職場のムードメーカーだった後輩くんが、
部署異動で去っていった。
休憩中にその子と話すのが好きだった。
大らかで気持ちの優しい青年で、
誰にも話せないこととか、ちょっとした愚痴とかたまると、
不思議とその子の方に足が向いた。
”親しみ””親しさ”というものを、
彼と過ごすことで久しぶりに思い出した。
こんな風に何でもないような日々の、
何でもないただの同僚との、
何でもないような休憩時間に、
知らぬ間に救われてたりする。
いなくなったって、寂しいなんて感じない。
お互いどっかで元気に頑張っているならそれでいい。
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恋人の背中を追いかけるのをやめた。
少なくとも、やめようと試みている。
自分の気持ちにもっと耳を傾ける。
自分の生活を大切にする。
恋人のことよりも、自分自身を好きでいる。
自分の生活がどんなに退屈で平凡に思えても、
自分自身がどんなにちっぽけに思えても。
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深夜、彼が山へ行くと言う。
明後日、戻ると。
寝ぼけ眼で頭を働かせ、言葉を探した。
半時間程かけても、一つしか見つからなかった。
いなくならないでね。
どういう意味だと、彼は捉えただろう。
少し驚いたように見えた。
そして、うん、と一言、去っていった。
翌朝連絡が来て、結局、彼は考え直して、山へは行かなかった。
その代わり、週末はずっと、そばにいてくれた。
一緒に美味しいもの食べて、
一緒に運動して、一緒に川や森を探検した。
すべての時間がキラキラして楽しかった。
彼のお母さんが言っていた。
満月の夜に生まれたから、
月から預かったような気がしていると。
だからいつか、月に返さなければならない日がくる気がすると。
それがいつなのかはわからないけど
お別れの日は必ずくる。
別々の人間である以上、必ず。
それまでたくさんの綺麗な景色とか
生き物とか植物とか一緒に見て
できるだけそばで手を繋いでいられるように。
その時間ができるだけ長く続けばいい。