みかんの色

夫は今週末、なぜか私と過ごそうとしていた。
いつもは予定していた外出さえブッチして出かけていくのに。
私の気持ちが固まった瞬間に、なぜ擦り寄ってくるのだろう。
家事をいつもよりやってくれたり、甘いものでもたべにいく?とか聞いてきたり。
いつもは私の顔さえ見ないのに、じっと見ていたりする。
なんだか可哀想だな、と思うけれど、
驚くほど心が動かない。
二週間前の週末、夫が独逸へいく前日。
私の従姉妹に子供が生まれたので、夫と一緒に会いに行くことになっていた。
夫は当日になって、
「プレゼンの準備があるから一時間で帰ってきたい」
と言い出す。
私「一時間は無理。出かけるのは午後だから、午前中に準備すれば?」
夫「今から弟とドライブ行くから無理」
私「は?こっちの方が前から約束してたじゃん」
夫「そうだけど・・・」
しばらくして。
夫「実家にスーツ忘れてきたみたい。取りに行きたいから、やっぱりいけない」
私「実家にスーツなんて持っていってないじゃん。部屋にあるでしょ」
夫「ちょっと探したけどなかった。実家に帰って探してみる」
私「じゃあ電話してお義母さんに探してもらいなよ」
夫「や、それはいいよ」
完全に怪しい。
私「ていうかうちにあるでしょ。探してあげるよ」
クローゼットを開けると、目の前に、普通に、かけてあるスーツ。
私「あるじゃん」
前日から泊まりにきていた義弟の手前、怒るわけにもいかない。
夫の勘違いというていで流してやる。
でも実際は私の親戚に会うのが面倒で、実家に帰りたくて仕方なくて、
どうでもいい嘘ついただけ。
ちなみにこの日は日曜日で、前日にも実家に帰っている。
夫「一時間で帰ってきたい」
振り出しに戻った。
私「一年以上ぶりに会うのに一時間とか無理だよ。あなたの親戚には月一ペースであってるのに、私の時は一時間とかいうの?それならあなたは行かなくていい」
夫「いや、明日から出張だからさ。一時間で帰ってきたい」
私「だから来なくていいって」
来ないと体面が保てない。でも面倒臭い。だから一時間と言い張る夫。
最終的に、夫は来なかった。
弟と実家に帰って行った。
どうでもいい。実家に帰らないでほしいとかもう思わない。
それが夫の精神安定の秘訣なら。夫の幸せなら。
でも私はこの人ともう歩みたくない。
休日はもう一緒に過ごさないと決めた日。
この執念深さ。
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会社の同期に相談した。
彼は私とも夫とも仲がいいから、
ためらっていたのだけれど。
なんて言われるか怖かったけれど、
とても親身に聞いてくれた。
別にいいと思うよ、別れても、と。
向こうが変人だからさ、と。
しかもその後、いつでも話し聞くからあんまり考えこむな、と連絡をくれた。
持つべきものは気のおけない同期。
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独逸で溜め込んでた分、
障りのない親しい人には現状を伝えたりしている。
愚痴りすぎても仕方ないけれど、
上手くいっています、みたいな顔する意味ももうない。
うまくいってない。
離婚したい。もしかしたらしないかもしれないけど。
みんな、離婚には反対しない。
親や親戚にはまだ言っていない。
一番、反対しそう。
でも反対意見も聞いてみたい。
私が一番、気がかりなのは、自分の幸せ。
もし、私が意地を捨てて、もっと献身的な気持ちを持って、
夫の嫁として生きる覚悟を持てたら、
きっとそれはそれでとても幸せになれる。
夫の家族はいい人ばかりだし、
きっといつなんどきでも助けてくれる。
夫だって自己中ながら真面目に働いて浮気もしないだろう。
その努力をせずに結婚を放棄して、
何十年後かに一人で、あの人と一緒だったら、
今頃子供や家族と楽しく過ごせたたのかな・・・
なんて思う日がくるのかもしれない、と思うのだ。
ぞっとする。
離婚後の自分。
気がかりはそれだけ。
自分はこの結婚に対して、努力したか?ということ。
我慢はしたけど、果たして努力は・・・。
してない。してない。
うーーーーん。考えこむなと言われても、やはり考えてしまう。
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彼のかしてくれた本を読んだ。
短編集だった。
最後の一編を読んだ時、彼がこの本を選んでくれた理由がわかった気がした。
母親を亡くすことの苦しさ、
母親なしで生きたいくことの困難、
それでも母親の愛は大きく、
親というものを超えて子は進んでいかなきゃいけない、
というようなことが、切々と書かれていた。
一文一文に共感した。
読んでよかった。
彼がかしてくれなかったら、
この本に行き着くことはまずなかったな。
私は彼のことをほんの少ししか知らない。
彼は普段、とても静かで、とっても変な人で、どちらかというとお笑いキャラで。
大事な人を亡くした話をしていなかったら、
こんな本を貸してくれるような人だとは思えない。
彼はただの同僚だけれど。
これからも、こんな風に、大事な何かを、
ひっそりと共有できたらいい。
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何をどうするのが一番いいのか、
もうわからないけれど。
焦ったらぶち壊しなのは、経験として分かっている。
だから、一つも焦ったりしない。
彼のことが好きで好きで仕方ないのは、
私の惚れっぽさ故だし、
この気持ちや彼のことや周りとの関係を大事にするには、
やっぱり焦ってはいけない。
触れ合える関係が必ずしも一番大事ではない。