この距離

水槽はいい。
砂を食らう魚。
エサをよこせとねだる魚。
私の姿を見ると岩陰へ隠れる魚。
バラエティに富んでいる。
そして美しい。
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父とのいびつな関係も。
心配な兄のことも。
病気の叔父や叔母も。
結婚に失敗したことも。
夫のことが嫌いであることも。
嫌いだけれど家族にちがいないことも。
既婚なのに人を好きになってしまったことも。
とても孤独を感じていることも。
海底を這うような生活を送っていることも。
今はそういう生き方を望んでしまうことも。
ありのまま受け入れて
自分にできることをして
できないことはできないと認めることができたらいい。
幸せでいられたらいい。
幸せでいたいと思えたらいい。
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真っ青な空を見て、
いい天気ですねって笑った顔が浮かぶ。
嬉しいの?って聞いたら、はい、って。
無口な方だし、あまり笑わないのに、
すごく嬉しそうだった。
仕事だから天気なんて関係ないのに。
たまに窓から青空が覗くのとかでも、嬉しいのだろうか。
そんな小さな出来事で、心が動いた。
この距離がちょうどいい。
本当に、そう思う。
私には、自分の人生がある。
今のこの人生を、もう少し、自由に、
幸福に、生きたいと思っても、いいのではないだろうか。
彼がそう思わせてくれた。
私の人生にはもう、彼のくれた、
静かであたたかい音楽が溢れているし、
彼の教えてくれた、静かで平和な本がある。
これ以上望む必要なんて、どこにもない。