雨の日

日本へ帰ってきた。
やはり祖国は居心地が良い。
言葉も通じるし、色々なことの勝手がわかっている。
だから、自分にとって良いように生活を整えていきやすい。
例えば習い事をしたければ、すぐに探せるし、
図書館へ行けばいくらでも面白い本を発掘できる。
祖国は良い。
素晴らしい。
祖国に住めるありがたさを身を持って知れたことが、
一番大事な経験だったかもしれない。
楽しいことも、もちろんたくさんあったけれど。
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もう一つの大きな変化は、仕事を始めたこと。
”主婦”としての三年間は、これもまた辛かった。
自分が甘かったのだと思う。
本当に。
不安や疑問を見て見ぬふりして、
全てほっぽりだして
知り合って間も無い相手についていくなんて。
でも間違わなきゃわからなかったんだから、
仕方ない。もう過ぎたことだ。
こうやって、一つ学んで無事に帰ってきたのだ。
職を失っていないのが不幸中の幸い。
労働はいい。
自分の生活費を自分稼げる。
色々な人と接することができる。
自分のいいところが見える。足り無いところも。
やりがいがある。
外で働くことは大変なこと。
それでも幸せだ。
もちろん家庭に入ることを選んでも、
私がつかめなかった幸せを得る場合もある。
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とりあえず、”きこく”と”ひっこし”と”ふくしょく”をクリアした。
順調、順調。
もうすぐ、”じっかがなくなる”。
永遠の問題は、”こどく”。
寂しい、寂しい、寂しい。
寂しさは、心をねじ曲げる。
夫は、相も変わらず毎週、実家へと通う。
彼の父は、母は、姉は、弟は、祖母は、皆、
彼をとても愛し、決して否定するようなことは言わないし、
拒否したりもしない。
彼の実家には、いつも心地よい風が吹き抜け、
暖かい光が差し込む。笑いが絶えない。
彼の叔父も、叔母も、従姉妹たちですら、まるで
家族のように仲が良い。
夫は、私を置いて、実家に帰る。
そういう時、私は、自分の身の上と比べてしまう。
私が大嫌いな、自分勝手な夫には、
帰る場所があって、思ってくれる暖かい人たちがこんなにいる。
私には、もう帰りたいとも思えない実家があるだけで、
唯一残ったいびつな関係の父でさえ遠くへいこうとしている。
そう思うと、気が狂いそうなくらい、夫が憎くなる。
妬ましくて、仕方ない。
そう、独逸にいた時は、この気持ちはなかった。
夫は常に家族と連絡を取り合っていたけれど、
それさえ見ないふりすれば、私たちは平等に孤独だった。
でも今は不平等だ。天と地。
夫はきっと、こう思う。
そんなに寂しいのなら、一緒に実家にきて、仲間に入ればいいじゃないか。
私にはまだ、それができない。
彼の実家は関係のない私ですら居心地が良くて、
彼の家族は私のことすらありのまま受け入れて、
程よい位置にふわふわと漂わせてくれる。
その幸福を素直に享受することが、
私にはとても受け入れがたい。
傲慢で、自分勝手なのは、私の方か。
そして、一人でいると安心する。
ときには底の底を一人で漂っていたい。
今はまだ、自分の気持ちだけと、向き合う時間が必要。
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恋なんて、もう思い出せないような昔のことだけれど、
好きな人ができたら、
絶対に好意を悟られないようにしたいタイプだった。
だから、好意をだだ漏れにする人の気持ちはわからない。
わからないけれど、素直でいいなあ、と思う。
素直なのは美徳だなあ、と。
突然、変な名前のバンドの、好きな曲を教えてくれた。
とても、不思議な曲だった。
少し、その人のことを理解できた気がした。
私は、そのバンドの、別の曲をとても好きになった。
ささやかだけれど、結構嬉しい出来事。
当たり前だった時には気づかなかったけれど、
私は今の職場が大好きだ。
仕事が好きで、上司が好きで、同僚も全員ではないけれど、好き。
人間関係は難しくて、クセのある人が多い。
でも、大事にしたいなあと思う。
だからこそ、全員と、近づきすぎず、かといって
離れすぎず、自分のことばかりでいっぱいっぱいになったりせず、
相手のことも考えてやっていかなきゃならない。
自分の不安定さとか、家の事情とかで惑ったりせず、
良い方に行けるように。