気持ち

私はドジだ。
本当に。
時々、とんでもないことをやらかす。
でも、人間てそんなものではないか?
ドイツで、友達がとんでもないドジをやらかすのを何度も見てきた。
私だけがドジなのでは、ないはず。
と自己弁護してみる。
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一言で言うと、銀行のキャッシュカードを失くした。
昼、電車の券売機に差し込んでそのまま電車に乗って、
夕方、忘れたことに気づいた。
事態の深刻さとしてはそれほど大したことはないはずではあるが、
自分のドジさに嫌気がさす。
どうすればいいか、とりあえずドンちゃんに連絡して聞いた。
とりあえず、カードを止めなきゃだめだとのこと。
でも、止めさえすればあとは心配ないし、
そんなこともあるよね、アンラッキーだったねと慰めてくれる。
しかし、止めるにしても今日は日曜日。
銀行が開いていないので、電話で止めなきゃいけない。
英語すらままならないのに、ホットラインの
自動音声は容赦なく独逸語で指示を出してくる・・・。
ドンちゃんが家まで来てくれるという。
さすがにそれは申し訳ないから、家にお邪魔することに。
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ドンちゃんは、彼の一人暮らしのアパートの最寄りの駅まで
迎えに来てくれていた。
彼の笑顔を見ると安心する。
呑気に近所の紹介なんてされながら、歩く。
家について、ドンちゃんに頼んだら、すぐに止めることができた。
ホットラインの自動音声やオペレーターの話す独逸語は、
一つも聞き取れなかった。
銀行のカードさえ、誰かに頼らなきゃ止められない。
なんて無防備な。
海外生活は、怖い。ことも多い。
ドンちゃんはさらに軽い夕食とお菓子も振舞ってくれて、
帰りも駅まで送って行ってくれた。
申し訳ないことに、クリスマスのプレゼントまでもらってしまった。
こちらは誕生日プレゼントもまだ渡していないというのに。。。
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やたら重量感のある、プレゼントだと思った。
ドンちゃんクッキー第二弾、サンタチョコ、そして重たい四角い包み。
振っても、中で何かが動く様子はない。
家に帰って包みを開けたら、
世にも美しい表紙絵の、分厚い、本だった。
ふいをつかれて、涙が出そうになった。
確かにここ最近、私は本の話ばかりしていた。
本が欲しい、古本屋があればいいのに、あの本面白かった、など。
ドンちゃんから会うたびにたくさんの児童書を借りてもいる。
でも、まさか、くれるなんて。
指輪100個より嬉しい贈り物だ。
何より、気持ちが嬉しいのだ。
私のことを考えて、選んでくれた、贈り物。
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家に帰ってから連絡して、
日曜の夜に煩わせてごめん、本当にありがとう、本も嬉しかったと伝えた。
ドンちゃんは、そこでもまた、
心配しなくても大丈夫、ドイツ語をあまり話せなければ
カードを止めるのはすごく難しいからね、
と優しい言葉をかけてくれた。
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私が一番迷惑をかけたのは、夫だ。
何を隠そう、ドンちゃんの家には夫もついてきたのだ。
存在感がないのは、私とは口をきかなかったから。
夫は、今週末は二つの集まりをドタキャンして
私一人で行かせるほど家でのんびりしたかったらしい。
夫がいなくてもカードは止められるはずだったが、
頑なについてくると言い張って、ドンちゃんの家についてきた。
カード紛失にたいそう気を悪くした夫は、
私とは口も聞きたくなかったらしい。
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以下、ドス黒いのでできれば読まないで下さい。
友達とは、いいものだ。
本当に。
お互いにとって心地よい距離で、
助け合ったり、楽しい時間を共に過ごしたり、できる。
こんなに素晴らしいことはないのでは。
少なくとも、今の私にとっては、
夫婦の何倍も、友達という関係はいいものに思える。
今回の事でもそうだが、
私が一番辛かったのは、お金を失うかもしれないことより、
夫に迷惑をかけることだった。
もし結婚してなくて、迷惑を被るのが自分だけなら、
割り切ればいいだけだ。
落ち込んで、反省して、友達の励ましを得て、
乗り越えればいい。
結婚によって、そこに、余計な苦労が加わる。
落ち込んで、反省して、夫の態度に傷ついて、夫に迷惑をかけることを心苦しく思って、友達の励ましを得て、乗り越えたはいいけど、延々と夫から言われ続ける。
自分だけ、じゃなくなる。
何かあった時、相手にも迷惑がかかる。
逆もある。
自分が悪くなくても、相手から迷惑をかけられる。
面倒なのだ。
でも、もし、ドンちゃんが夫だったら、
別の人が夫だったら、
たとえ私がカードをなくしたぐらいで、
こんな態度をとられることはなかったんじゃないか。
自分がカードを失くして、よくもこんなことが言えたものだと、思う。
厚顔無恥とはこのことか。
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結婚がうまくいくことだって、大いにありうると思う。
相手を、きちんと選べば。
相手の家族も、きちんと知ってからなら。
いろんな問題はつきものでも、
乗り越えられる程度の問題で済むはず。
結婚した、結婚を控えている、これから結婚していくであろう、
大事な友達の結婚がうまくいくことを願うし、
うまくいくだろうと本気で信じている。
ただ、自分の結婚がうまくいくということは、
もう絶対に信じられない。
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私たちみたいな末期の夫婦喧嘩の話を聞かされても、
友達もさぞ困るんだろうと思う。
結婚という契約がある限り、常識的な友達としては、
仲直りを進めるしかない。
でも、内容を聞けば、自分ならごめんだわ、と思うだろう。
仲直りなんて無理そうな、破綻した関係だったら、
そりゃ何も言えないだろう。
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こんなことを書きたかったんじゃないのだ。
書きたかったのは、今日は、ドンちゃんにどこまでも救われたということ。