新しき

引っ越しが終わった。
苛立ちに支配された数日間だった。
家を手放すと決めたこと。
私の意見などはなから聞き入れるつもりはないこと。
思い出の品を躊躇なく捨てていくこと。
家を売ることを勝手に決めたくせに、
少し大家ともめただけで、
やめようかななどと軽々しく口にすること。
勝手で無神経で周りが見えていない人。
かわいそうな人。
***********
昨日はみじめさで潰れそうだった。
持つ者と持たざる者。
その言葉がなんども頭に浮かんだ。
持つ者の象徴的存在はやはり夫だ。
奴は無敵だ。信頼関係で結ばれる家族の存在は強力。
持たざる者代表は私。
なんだこれ?
ゾッとする。
気分転換に散歩していたら、
日が暮れて真っ暗になって、
街灯もなくて怖くて余計みじめになった。
いろいろと考え、悩み、歩いた。
持たざる者・・・。
何も持たなすぎて、いっそせいせいするぞ。
***********
そして立ち直った。
うん。歩ける。大丈夫。
大丈夫だ。
うん、うん、と頷いて聞いてくれた。
私のちょっとした笑い話。
今回の壮大な引っ越しに懲りて、
荷物を減らすことを決意した私。
思い出は記憶の中だけで十分!
を合言葉に、届いたダンボールを次々に開けて
断捨離を試みる。
が、捨てるものが見当たらない。
なくてもいいものばかりなのに、
一向にゴミ袋は膨らまない。
私はぽつぽつとゆっくり話す。
私の言葉だけに心を傾けてくれる。
彼といるときは世界に適正な時間が流れる気がする。
むしろ時間が止まっているような。
なんて安らぐ。